感じる意識の領域がある



冬が終わり、春になろうとしていた
あの日の昼下がり

僕は、いつもの漠然とした
焦りと鬱々さを抱え、

いつものように、部屋に閉じ
こもり、事務作業をしていた。

まるでパソコンが容量不足で
フリーズするように、

ぼくの意識は、ついに
ショートして灰色になった。

思考は焼け、こころが芯からグッタリし、
もう何も考えられなかった

ただ、残っていたのは、
外に出たいという欲求だけだった。


僕は、見ることに疲れ、
考えることに疲れ果てていたから、

この際、『目を閉じて』、
友人に手をひいてもらい、
散歩へでかけた。


友人の手のぬくもりを、
初めて感じたかのように
今でも鮮明に覚えている

目を閉じた世界への恐れがあり
おそるおそる、老人のように

すり足で少しづつ歩いた


足の裏で感じる、芝生の感触、
石ころ、アスファルトの感触・・・
地面を足で感じている・・・・

こんなに足の裏で、
地面を感じたことなんて、
ずいぶんないんじゃないか・・・
そう思って、感じて歩いていると、


ふと、木々が、カサカサ、さわさわと
風で揺らいでいる音がした

立ち止まり、その音に、意識を向けると、
なんだかその音と距離が縮まり、
そして溶け合ってゆくような気がして、

なぜか無性に爽やかで、
あたたかくて、
妙に気持ちがよかった。


今まで耳の感覚を閉ざして
聞いていなかったのか・・・

音を感じる感覚の存在に気づき、
さらに音に意識を向ければ向けるほど、

音への解像度が増してゆき、
存在していなかった、

いや、
存在はしていたのだろうけど、
聞き取れていていなかった

音の重なりや深さが
どんどん現れてくる!


まるで初めて地球に来たかのように、
新鮮さを感じながら歩いていると、

ふと、木漏れ日が、閉じたまぶたに
明るさと暖かさを知らせてくれた

え!?・・・
なんとやわらかくて、まろやかで、
暖かいんだろう・・・

ゆらぐ光と影が、こんなにも
僕を感じさせ、
柔らかくし、穏やかに
してくれるだなんて、

いったいなんでだろう・・・


そうだ・・・

今まで、このふたつの目で、
表面だけしか、見てこなかったんだ・・・

長い間、見失っていた、
もっと深いものを感じる眼の存在を
思い出したような気がした・・・

心の氷が溶けて呼吸が楽になり、
開放感に満ちた気持ちになり、
無性に心地よく、嬉しかった。


目を閉じて歩いてるだけだよね・・・

そのなかに、
普段、目を開けて見ている世界とは
まったく別な世界があるのか・・・


そんなことに感動しながら、
至福の中で歩いていると、

『パン屋さんに寄ろうか』と、
友人が、言って、
ちょうど通りかかった
パン屋さんに寄ってくれた。

ドアを開けると、ドアの木がきしむ音と
鈴の音が鳴り、その瞬間

小麦の香ばしさと、
シロップと、バターの香りが

今まで感じたことがないほど
繊細で衝撃的に、
肌と嗅覚で感じた。


それを感じたとき、
まだ食べてもいないのに、
既に十分に豊かさに満たされ、
本当に嬉しかった。

買ったパンを、ひとくち食べると、
具材の全てが、まるで勝手に僕に
自己紹介をしてくれるように、

口の中だけでなく、
オーラ全体で感じて味わっているようで、
感動と喜びで感極まっている自分がいた。

たったパン一口で、
こんなにまで幸せになれるなんて・・・

これって、何ら特別なことではないよね
いつもと変わらぬ、なんも珍しくない
日常のひとこまなんだよね・・・

ああ・・・そっか・・・
『感じる』という
感覚の領域があるんだ・・・

その領域を、僕はだた
置いてけぼりにして、
長らく使ってこなかったんだ・・・

なぜそうなったんだろう・・・?

そう、
思考ばかりに僕の意識は
占領されていたらかだよ!

そうか、だから生きることが
あまりにも実務的、効率的、

そしてワンパターンで
新鮮味と感動から遠ざかり、

色あせて無味無臭の
不感症的になっていたんだ。


そうか、いきものは、
『感じる』ことで、
喜びを感じれるようになってるんだ!

思考に偏り過ぎると、
まるでハムスターの回す車輪のように、
自分で自分を牢屋に閉じ込めて

解けない悩みで満たしてしまうんだ・・・

僕は、なんというたいせつなことを、
今まで忘れて生きてきたんだ・・・






私は、この瞬間から、音への世界に、
より深く入っていきました。
長らく、失っていた、大切な感性を思い出し、


沢山の解けなかった謎や悩に対する答えが
向こうから押し寄せてくるようになり、

生きることが、真っ直ぐでシンプルになりました。

感じるという意識を是非思い出してください。

あなたの人生が、
きっとさらに
開かれたものになるでしょう。


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